短編集(魚喃キリコ)

魚喃キリコは漫画家だが、これら作品は漫画と言うよりも、むしろ詩的である。
絵と文章が絡み合いながらも完全には一体化していない感じがするのは、魚喃の絵柄が静的であるせいなのか、それとも心理描写が卓越しているからなのか。
直接的な性の表現も有り、表現は即物的なのだが、その根底にはリリカル(叙情的)なメンタリティーが潜んでいる。
一昔前には詩を読んでいたような少女以上大人未満の女性達は、現代ではこういう作品を読むのではないだろうか。
バッドエンド、あるいは言いっ放しなエンディングが多いが、人は、恋の数よりも成就した恋の数の方が少ないだろうし、今幸せな恋をしているとしても、駄目になった恋の思い出を多く持っていることだろう。
そう考えると、ハッピーエンドの恋よりも、バッドエンドの恋、現在進行形で先行き不安な恋の方がずっと多いのだ。
童心を忘れない大人だけが子供の理解者に慣れるように、辛い、理不尽な恋を忘れない者だけが乙女の理解者に慣れるのだろう。
上品で繊細な絵柄、リアリティーのある表現、リリカルなメンタリティーがあいまって、30男の乙女心さえもくすぐる。
秀作だが、魚喃作品を好む女性と付き合うのは疲れそうだな...

魚喃キリコ短編集

魚喃キリコ短編集