逆まわりの世界(フィリップ K.ディック)

SF小説。優れたSFと言うのは、大きなウソ(IF)を大前提として、科学的に整合する世界観を構築しているものだと思う。SFと言うには大分レベルが低いが「もしスペースコロニーに移民するような世界にミノフスキー粒子なんてものがあったら」と考えるとガンダムが出来るし、「もし第二次世界大戦の勝者が日独伊だったら」と考えると『高い城の男(フィリップ K.ディック)』が出来る。本作におけるIFは「もしも時間が逆行したら」だ。人は墓場から蘇り、年を経るごとに若返る。煙草は吸い殻から徐々に長くなり、人は食事を口から更に戻す。とは言え、こんな世界でも人は自由意志で動くし、トイレで体内に排泄物を取り込む描写はない。ディックは、エントロピーの減少を描きたかったのかも知れないが、どうにも上手く行っていない。「時間が戻る」との大胆な着想を優れたSF作品に昇華出来なかった感じ。凡作。ディック作品には他に優れたものが多くある。

逆まわりの世界 (ハヤカワ文庫 SF 526)

逆まわりの世界 (ハヤカワ文庫 SF 526)