チェーン・スモーキング(沢木耕太郎)

エッセイ集。沢木耕太郎と言えば、我々の世代のバックパッカーにとってのバイブル『深夜特急』が代表作である。ノンフィクションライターの技量を持って綴られるエッセイは、情緒的な内容を精緻な筆で描かれている。
本作中の一編「シナイの国からの亡命者」にはいちいち頷かされる。「シナイの国」とはシナイ半島の某国ではなく、様々な事柄を自らに戒め、「〜しない」ことによって自らを律するダンディズムのことである。沢木は、他の作家のエッセイを引き合いに出し、自分もまた「シナイの国」の住民であると述べる。ここまで読んで、沢木に共感する自分もまた「シナイの国」の住民であると気付かされる。多分にシナイの国の住民は、感受性が高く、いろいろなことを無駄に考えすぎで、滑稽なくらいに自意識過剰なのだ。私のダンディズムは私に喫煙「シナイ」ことを強いるのだが、沢木は表題にもあるごとくチェーンスモーカーなのだろうか。煙草に対する意識の差こそあれ、様々な面で共感させられる一冊。

チェーン・スモーキング (新潮文庫)

チェーン・スモーキング (新潮文庫)