Effort

yano_zeon2006-03-15

「彼女(彼氏)を得るためにはどうしたらいいのか」と言う悩みと、「ダーツ(他競技にも置換可能)で勝つためにはどうしたらいいのか」と言う悩みはとてもよく似ている。これら悩みを有する者は、恋愛やダーツの弱者だけであるとは限らない。実力に関わらず、自分の実力以上を求める者は皆この悩みを持っている。
この質問に対する直接的な回答は「弱い相手を探せ」である。最底辺の恋愛弱者であったり、ダーツが的に届かないくらいのダーツ下手でない限り、自分より弱い相手は必ず存在する。恋愛に関しては、相手に求める条件レベルを引き下げ、アタックを続ければほぼ確実に伴侶を得ることが出来るだろうし、ダーツに関しては、自分よりもレイティングの低い者を探し、試合をこなせばほぼ確実に勝利を得ることが出来るだろう。
しかし、大概の人はこの「弱い相手を探せ」との回答に納得しない。恋愛的には「自分の理想を下げたくない」と言うし、ダーツ的には「弱い相手に勝っても嬉しくない」と言う。だとしたら、口では「彼女が欲しい」「勝ちたい」と言っていても、本当の欲望は「彼女や勝利を得るために自分のレベルを上げたい」であると言えるが、これはいくつかの意味で難しい。
まず、第一の困難は、自分の力を上げるには、継続的な努力が必要だと言うこと。恋愛における実力とは、志、人格、教養、能力、容姿、収入、コミュニケーション能力などの総合力である(ここではこの力を人間力と呼ぶ)。ダーツにおける実力とは、狙った場所に安定してダーツを刺す能力である(ここではこの力をブル力と呼ぶ)。人間力もブル力も一朝一夕に身につけるのは難しい。勿論、努力によって人間力もブル力も上昇させられるが、有る意味全ての人間は人間力を、全てのダーツプレイヤーはブル力を向上させようと常に努力しているのだから、そこから頭一つ抜け出すのは難しい。
また、努力して人間力やブル力において人に先んじられる人間なら、既に人間力やブル力において先んじているはずであるから、現時点において人間力やブル力で劣っている人間が未来において実力で逆転出来る可能性は低い(勿論可能性が無いわけではない)。
希に、人間力はあるのに恋愛経験の乏しい人物や、ブル力はあるのに対戦経験が少ない人物が居り、これらの人物は恋愛ノウハウ(いわゆる「異性にもてるためには」テクニック)や対戦ノウハウ(アレンジ技術、メンタルコントロール方法など)を学ぶことによって人間力やブル力を恋愛や対戦においてフルに発揮出来るようになる。しかし、そのような人物は希少であるし、いくらノウハウを学んでも、人間力やブル力自体を上昇させることは出来ない。それに、有る程度の人間力やブル力を持つ人間ならば、恋愛ノウハウや対戦ノウハウなどマスターしていて当たり前なのだから、これらノウハウを習得してようやくスタートラインに立てるだけであり、イニシアチブにはならない。
第二の困難は、自分の実力を上げても、ステージが上がればインフレーションが生じること。例えば、現在、ある店舗の中でダーツのレベルを上げて勝ちたいと思っている人物が居たとしよう。「出来る男は常に次の目標が見えてしまう(島本和彦)」のだから、例え店内で勝利したとしても、次にはその地域で、その県で、日本で、世界で、とステージを上げ続けなければならない。希にステージを上げても行き詰まらない人物が存在し、頂点に立てるが、それ以外の大多数はどんなに負けず嫌いであっても、上昇意欲を持っていようと、努力していようと、頂点には立てないため、行き詰まる。すなわち、目標を持たない漠然とした向上心は、ほとんどの場合満たされない。

もう一度問題を整理してみる。「伴侶を得るためにはどうしたらいいのか」と言う悩みと、「ダーツで勝つためにはどうしたらいいのか」と言う悩みを解決するのは難しい。何故ならば、その悩みを述べる人の大多数は、単なる伴侶の獲得や勝利では満足出来ず、「現在の自分の人間力以上の伴侶」や「現在の自分のブル力では到達出来ていないステージでの勝利」を求めているからである。
この達成方法は二つ。

  • 自分自身の実力を向上させる

人間力が向上すれば、ほっといても異性が寄ってくるから伴侶には困らない。ブル力が向上すれば、メンタルが弱かろうが、アレンジ戦略がまずかろうが、大概は勝てる。ただし、この方法は短期的に成果を出すことが難しいし、そもそも実力のない人間がこれから先その人の自負心に見合うだけの実力を身につけられる可能性は低い。

  • 目標とするレベルを下げる

自分の実力に見合った、あるいは自分の現在の実力を客観的に測定した上で、到達可能なレベルにまで目標のレベルを低下させる。

根本的な達成方法はこの二つであるにも関わらず、「伴侶を得たい」、「ダーツで勝ちたい」との悩みに対して、世の大多数の助言者は小手先のノウハウを教授する。確かに、これらノウハウを得ることによって伴侶を得たり、ダーツで勝つことが出来るかも知れない。しかし、ノウハウの習得は、実力(人間力、ブル力)の向上には寄与しないのである(伴侶の獲得や勝利が契機や励みになって人間力、ブル力が上昇することはある)。

自戒も込めて繰り返す。漠然とした向上心を満足させる近道はない。具体的で到達可能な目標を設定するか、地道に自分自身の実力を向上させる、あるいはその両方を同時に行うしかないのである。