THE 有頂天ホテル

ホテルを舞台にした1ナイトストーリー。
三谷作品はベタであざとい。
ベタな作りだからこそ、汎世界的な興業を目的とするハリウッド映画と同様の分かりやすさを有する。
あざといほどの情報を与えるからこそ、推理小説と同様の「頭脳ゲーム」的な錯覚を与える。
キャストのほぼ全ては三谷作品の常連さんであるし、半分以上は「新撰組!!」に出演していた。
だからこそ、「役柄に合う役者を選ぶ」ではなく、「役者に合う役柄を設定する」三谷の特長が色濃く出ている。
ゆえに、良くも悪くも、佐藤浩市はやはり佐藤浩市でしかなく、役所広司はやはり役所広司でしかないから、役者の持つ力を100%引き出せるが、100%以上は絶対に引き出せない。
密室劇に近い室内劇、分かりやすい展開、ベタな設定、ベタなメイクなどを見るに付け、三谷はやはり小劇場出身の脚本家であるなあ、と思うと同時に、この観客に対する優しさは、観客に対する不信感のあらわれではないかと思う。
すなわち、芸術と呼ばれる物の大多数が、普遍性を持とうとしていながら観客に審美力、鑑賞力を求めるのに対し、三谷作品は、観客に鑑賞力を求めない。
親切過ぎる作りは、観客の理解力や教養、鑑賞力を信用していないからではないか。
そう考えると、作品のテーマである「自分に正直に生きよう」も、三谷一流の諧謔であり、
「このテーマならみんな納得するでしょ」的な計算と諦観から生じたものではないかと感じる。
大画面で見る必要もないが、友人と共にDVDで鑑賞するのに向いた良作。