Earthquake-proof safety

昨日、休日出勤中、蕎麦屋に昼飯を食いに行ったら、混んでいて知らないおじさんと相席になった。
おじさんはテレビで流れていたワイドショーを見ながら作業着姿の私に「建築関係か」と聞いてきた。
違うが建設関係だから似たようなもんだと答えると、耐震強度の偽装問題について意見を求められた。
私も一応名刺に「建設コンサルタント(防災地質)」と記している身であるから一家言有る。
そこで話していた内容をここに記す。

  • 不景気とコストダウン

最近、コストダウンについて良く言われる。
「安全な建物」ではなく「最低限の内容でいいから安価に」と言われることが多い。
安全の基準には曖昧な項目が多く「危険だけど解釈の仕方によっては最低限の基準はクリアする」ような成果を求められる。
今回の件はその「最低限の基準をクリアする」やり方について越えてはいけない一線を越えてしまっただけで、どこでも誰でも有る程度はやっている行為の延長上の行為だと思う。
でもって、設計士が独断でそのような行為をしていたとは思えない。
設計士がそんな行為をしても、書類を作る手間が少し省けるだけで、自分には何のメリットもない。
すなわち、顧客がコストダウンのために偽造を建築士に指示したと見るのが妥当であろう。
また、長引く不景気によって建築業界、建設業界は供給過多の完全買い手市場である。
顧客を失わないために偽造までしてしまう零細業者が居てもまったく無理からぬことである。

  • 建物の安全性について

強度が不安だから使用禁止命令が出たと言うが、そんなのはただの見せしめである。
古い建物は耐震基準が低く、経年劣化もあることを考えると、さらに耐震強度は低い。
現在の基準に満たない強度であっても、昭和に建てた建物の大半よりも強度があるのではないか。
すなわち、そんなマンションやホテルよりもはるかに危険な建物は沢山ある。
貴方の家や職場も、震度5で余裕で倒壊するかも知れないが、使用禁止命令は出ていない。
また、自分の専門的に言わせてもらうと、建物強度以前の問題として地盤強度が低かったり、断層直上で危険性が高かったりしても何の問題もなく基準をクリアしている構造物は多い。
地震が来たら災難」と思うしかないと言うのが現状だ。

  • 再発防止策について

根本的にはない。
規制、チェックを厳しくすれば、よりコストが高くなり、世間の「より良いものをより安く」とのニーズからかけ離れるし、耐震設計だけ厳しくしても、施工の段階で手抜きされれば意味はない。
法整備をいくらしても抜け穴、逃れ方はいくらでもある。
そして、悪徳業者などは過去にも山ほど居たし、現在も山ほど居るし、未来もなくならないだろう。
イタチごっこは永遠に続く。
無論、だから努力を放棄せよと言うわけではなく改善の努力をするべきだとは思うが、本質的にこのイタチごっこを止めることは不可能だろう。

  • 他山の石

とは言え、この件を他山の石とするべきであり、職業倫理は高く持つべきだと再認識する。
しかし、食えなくなっても高い職業倫理を持ち続けている自信は、私には、ない。