The farthest land

私の生まれ育った町は、一昨年、浜松市に合併された。
人口が15000人だったバブル前、この町には二軒の本屋があった。
小中学生だった私には、この二軒の本屋と町立図書館、学校の図書室だけが世界への入り口だった。
もちろん、テレビも新聞もラジオもあったのだが、それらは万人に等しく開かれており、自分が恣意的に入り口を選べるメディアは書籍だけだと思っていたのだ。
そして、バブル期には、この二軒の本屋がそれぞれ町内に新しく出来たショッピングセンター内に支店を出し、それ以外にも二軒の本屋が開店した。
さすがに田舎町に六軒の本屋は多すぎたらしく、バブル前後に相次いで淘汰され、結局は老舗の二軒が出した支店のみが生き残った。
そして、人口が20000人を超え、浜松市に合併吸収された昨今、町内には本屋が一軒だけになり、私の小学校の学区内には本屋が無くなった。
シャッター商店街が云々される昨今、この変化に対応して行かざるを得ない。
雑誌類はコンビニで買えるし、大人なれば、数km離れた旧浜松市内の本屋まで車を飛ばせるし、ネット書店も利用できる。
しかし、文化の伝道師たる本屋の無い町で、子供達はどうやって育っていくのだろうか。
毎月数万円単位で書籍費を費やしているのにもかかわらず、ここ数年町内の本屋に金を落としていない私に、地元本屋の減少を嘆く資格がないことは分かっている。
独りよがりでセンチメンタリズムに端を発したノスタルジーでしかないのも重々承知しているのだが、それでも甚だ寂しいことであるよ。
ちなみに、10年以上前から、町内のCD屋は絶滅しているのだが、こちらにはまったくもって感傷はない。