生と死の分岐点 -山の遭難に学ぶ安全と危険(ピット・シューベルト)

豊富なバックデータに基づいて山岳事故を検証し、追試し、紹介する山岳事故の事例紹介書。
ドイツ人と言えば、粘着質の職人気質を想像するのだが、本書は、その職人気質が良い方向に発揮された良書。山岳事故の原因は、天候の不順や不運など、天災的なものであったとしても、それらは全て想定可能なものである。故に、山岳事故を致命的な結果に至らせる理由は、貧弱な知識、稚拙な技術、ケアレスミスのいずれか、あるいはそれらが組み合わされたからであり、全てが人災である。
我々は「どうやったらカラビナは壊れるのか」「どう扱ったらザイルの強度は低下するのか」について定性的に学んでいたが、本書はこれらについて定量的に教えてくれる。定量的な思考のみが、同時には達成しえないいくつかの事柄の優先順位を正しく判断させてくれるのだ。
アルパインクライマーやケイバーなど、ザイルを扱う人々には必読の書。本書を読んでいないようなレベルの人間をザイルパートナーにしたくない。

生と死の分岐点―山の遭難に学ぶ安全と危険

生と死の分岐点―山の遭難に学ぶ安全と危険