イカロスの山#1(塀内夏子)

20年前、私がまだ高校生の頃、『おれたちの頂(塀内真人←後に塀内夏子に改名)』が週刊少年マガジンに連載されていた。今でもメジャーとは言えないが、当時は更にマイナーだったクライミングを扱った漫画であり、中学生だった主人公達は、そのままエベレストにまで駆け上った。
私は、『おれたちの頂』に憧れて地域の山岳会の人達に北岳や燕岳に連れて行って貰ったが、ザイルを用いた登山も、冬山も教えて貰えなかった。大学に入った私は、つぶれかけていた探検部を無理矢理復活させ、山に登り、ザイルワークを学び、国内外の洞窟を探検していた。間抜けなことに、就職してからクライミング中に骨折して入院もした。
20年ぶりに塀内が描いた山岳漫画を喜びいさんで読んでみたが、いささかがっかりした。私の期待が強すぎたと言うことはあるにせよ、20年かけて塀内が進歩していない感じがするのだ。『おれたちの頂』当時、デビューしたての塀内は見知らぬ(であろう)クライミングの世界を初々しくも溌剌と描いていた。あれから20年、山岳技術自体が発達しているだけでなく、少ないとは言え、『クライマー列伝(村上もとか)』や『K(遠崎史朗/谷口ジロー)』、『山靴よ疾走れ(紅林直/生田正)』などの山岳漫画もものされているし、山岳関連の情報量も格段に増加して入手しやすくなっている。しかして『イカロスの山』は、掲載紙が少年誌から成年誌に移り、主人公を少年から成年に変えただけで『おれたちの頂』の焼き直しである。ストーリーや構成はそれでいいとしても、いまだに塀内は見知らぬまま山岳の世界を描こうとしている。いかに女性作家とは言え、ベテラン漫画家のするとこととは思えないし、今時そんな子供だましな描写を許す編集者も編集者である。エンターテインメント作品なれば、ドラマと人物描写が重要なのは当然だが、浅い描写では大人の読者を引きつけられない。下手にその分野の知識があるため、こんな不遜な感想を抱いてしまう。
一般読者向けの娯楽作品としては知らないが、山屋には見向きされないであろう作品。

イカロスの山 1 (モーニングKC)

イカロスの山 1 (モーニングKC)