Spatial reasoning capacity

今日から5日間、富士山麓朝霧高原にある研修施設で、地形地質学の研修に参加する。実習を受け持ち、巡検を案内するスタッフとしての参加だ。以下の文は、その参加者に配る資料の冒頭言として私が書いたもので、ちょっと気が利いているかと思ったので、転載した。

  • 空間認識と認知地図

認知地図と言う概念を知っているだろうか。
認知地図とは、ある人間の頭の中にある地図だ。ある場所について、ある人間が書く地図、と言える。認知地図の範囲や精度、密度は人によって大きく異なる。自分が詳しい地域については詳しく描けるし、自分が良く知らない地域については、おおまかな絵しか描けない。
子供や方向音痴の人が書く地図は、おおまかで距離や方向が曖昧だ。これは、自分を主体にして、まっすぐとか、右とかで、空間を認知しているからだ。コンピューターゲームで言うと「ウイザードリー」型の視点と言える。これを便宜上、1次元の空間認知と呼ぶ。
土地勘がはっきりしていて、地図が読める人が書く地図は、直接的なルートだけでなく、周辺の情報も含まれているし、距離も方位も、相対的には大体合っている。他人に道を教える際に、右、左でなく、東西南北で表現出来る。これは、真上から見た視点での位置を認知しているからだ。コンピューターゲームで言うと「ドラゴンクエスト」型の視点と言える。これを便宜上、2次元の空間認知と呼ぶ。
地理や地形の分かる人は、地形図の等高線情報を読みとることで、立体的に地形を思い浮かべることが出来る。他人に道を教える際にも、道路の高低差や、傾斜、ランドマークまで表現出来る。コンピューターゲームで言うと「フライトシミュレーター」型の視点と言える。これを便宜上、3次元の空間認知と呼ぶ。

  • 技術者の空間認識と認知地図

地質の分かる人は、この認知地図の情報の中に、道路や地形だけでなく、地質を重ね合わせられる。  レベルの低い地質技術者は、平面的な地質図しか頭に描くことが出来ないため、2次元の地質図しか作成できない。
1人前の地質技術者は、地質図、地形図の情報から、立体的に地質の分布を思い描くことが可能であるため、3次元の地質図を作成できる。
更に上級の地形地質把握能力を持つ技術者は、地質の凡例や層序、地形から、地形変遷を立体的に思い描くことが可能である。縦×横×高さの3軸に、時間軸まで加わるから、4次元の空間認知能力を有していると言える。

偉そうなことを書いているが、私自身、4次元の空間認識能力を獲得しているのだろうか。一応、4次元で思考しているつもりだが、情報密度、精度、範囲共に十分とは言えない。
まだまだ、精進せずばなるまい。