Regional flavor

雑煮には地方性があらわれる。
我が家の雑煮は、具は白菜だけで、角餅を煮込み、花鰹を散らせるもの。近所の親戚宅や友人宅でも同様だから、遠州地方の伝統様式なのだろう。
我が家から車で30分ほど山間に入ったところに山岳信仰修験道と仏教が混じり合った寺社、奥山半僧坊方広寺があり、その門前に神谷*1と言う蕎麦屋兼茶屋兼土産物屋がある。母が生前、贔屓にしていた店だ。ここのそばは、大体、普通の田舎そばで、取り立てて美味いと言う程のものでもないのだが、看板メニューの乃木そばだけは、少し違う。
明治期に乃木希典が食して以来、味を変えていないと言うこのそばは、田舎風の厚ぼったい手打ちそばに、鰹だしを利かせたしょう油仕立てのつゆをかけ、花鰹を散らせて食する。
で、この味が、我が家の雑煮の味ととてもよく似ているのだ。
本来、そばつゆなどにも地方性があった。しかし、近代に到り、情報流通量が増加し、地方の文化が駆逐されると同時に、そばつゆの地方性も失われていったのだろう。これは、『蝸牛考(柳田国男)』に代表される文化伝播論にも相通ずる。
乃木希典が食したそば、と言うプライベートブランドの力を持って、地方の文化が継承されたことは僥倖である。
昼食に乃木そばを食しながら、そんなことをつらつらと考えていた。