Homily

若い内の苦労は買ってでもしろ、などと説教じみたことを言いたいわけではない。
しかし、人間は、過去に経験した最も悪い条件までは耐えられるのだから、嫌な経験を沢山積めば、ストレス耐性を上昇させられるのではないだろうか。
例えば、梅雨時期に山中で地質調査をすると、同僚は、「湿度が高すぎる」だの、「蚊が多い」だのと不満を垂れる。
私は、「こんな湿度、ボルネオのジャングルに比べればドライルームだ」「日本の虫なんか良いヤツばかりだ」と考える。
ジャングルでは、朝干した衣類を、夕方取り込もうとすると、大概は、湿気を吸って、より重くなっていた。虫に刺されてマラリアになったり、手足がボコボコに腫れたり、火ぶくれになったり、傷口が膿んで一週間も乾かなかった。
それを思い出せば、日本の梅雨など、なんと言うことは無い。全くストレス無しで過ごせる。
しかし、体験を他人と共有することは出来ない。それを他人に強要してしまえば「戦時中はなぁ...」と繰り返す老人と同じになってしまう。
だから、同僚を内心で見下しつつ、一人、快適に野山を歩く。
もっと沢山、嫌な経験を積んでいきたいものだ。