Jump before look

某大学の現役探検部員である某君と会う約束をした。
某君は、洞窟探検の海外遠征を計画しており、その先達である私からいろいろ助言を請いたいのだそうだ。もう5年ほど洞窟に入っていない身としては今更出張るのもためらわれるが、遠征予定地が、1997年に私が遠征隊長として調査したボルネオ島の某国立公園であっては断れない。また、自分が現役時代には様々な人のお世話になっており、ツケが溜まっているから、それも誰かに返さねばならない。
彼は、ほとんど洞窟の経験はないが、ボルネオに行って、世界最大の新洞窟を見つけたいと言う。これは、本格的な登山の経験が無いのに、エベレスト登頂を企てるようなものだ。新洞探索の成否は、9割が出発前の準備段階で決まり、残り1割が運で決まると思っている。計画立案には経験や知識が必要なのは言うまでもないし、人並み外れた強運を持っていたとしても、その運をたぐりよせるためには有る程度の技術が必要である。こんな無謀とも言える計画を大まじめに立てられるところに、呆れると同時にある種の羨望を覚える。
「見る前に飛べ」と言う。前人未踏の創造的な活動を志す者に、経験不足を説くのはまさに老婆心と言えよう。とは言え、「見る前に飛べ」を「谷底をのぞき込んで身をすくめるよりも、着地点だけを見て飛べ」と解釈すると、せめて、着地点くらいちゃんと見とこうよ…と言いたくなる。横から見てて、落ちて大けがしそうだと、小一時間問い詰めたくもなる。
何にせよ、メールでしかやり取りしていないので、一度会って、ちゃんと話を聞き、助言や助力が可能なら、してあげたいと思う。そして、夢やパワーを分けて貰えたらいいな、とも思う。